
![]()
09.11.03

視覚障害のある子の家は、
バリアな家?
カフェの様なキッチンの話の前に、この家庭の前提の話をしなければなりません。
最初の出会いは、バリアフリーの設計ができる設計者ということで、過去のデイサービスセンター、宅老所(託児所の高齢者版)、社会福祉センター、保健センター、バリアフリー住宅の設計経験を生かしたプレゼンテーションが実り、契約させていただきました。
問題点は段差、日当たり、目の届かないキッチン!
東京都心部から少し離れた所に、築88年になる母屋があり、その脇に建つ築14年の平屋の建物。
増築を繰り返しており、母屋とも段差、内部にもいたるところに段差のあるお宅でした。息子さんは先天性の視覚障害を持っており、家の中の段差、見通しの悪さ、日当たりの悪さなどが大変な問題になっていました。
小さい子どもにとって家は生活能力向上の場所であり、ほとんどの時間を過ごす場所。そんな場所が危険で親の目が届かないという問題点を解決するということが命題でした。
キッチンの話はもう少し後にします。
というのは、「家族」の形から、キッチンが作られているからです。
「足の裏の地図」ってなに?
私の提案は床の段差をなくしながらも場所ごとに素材を変えること。
足の裏の感覚で、ひんやりした場所は入っていけない(キッチン床のタイル)や畳の柔らかさを感じるところは寝るところ、無垢の木の感覚はで遊べるところなど、「足の裏地図」を作ったのです。
そして、通常バリアフリーというのもは、温度差をなくし、段差をなくし、暗い所を作らないという「差」の消去なのですが、これから視覚以外の感覚を研ぎ澄まし、可能な限り普通に日常生活をする子供の生活(リハビリ)空間において、
あらゆる「差」の解消は感覚の欠如を招きかねないと考えました。
感覚の育てる床
逆に私はこの家でバリアを作ることを提案。
日当たりのよい暖かい床とひんやり冷たいタイル。天井の高い吹き抜けと、天井の低い脱衣室や寝室。窓を大きく開け放ち、風を取り入れ、太陽にさらされて眩しいテラスと北側にしか窓のない部屋などを作りました。
彼にとって「差」が情報なのです。設計中、特別支援教育(盲学校)の授業に参加させていただき、視覚に関しても濃淡は認識できると盲学校の先生、自作の黒い机を見せてもらいました。
手すりは白い壁に赤い手すり。床も濃い蜜ろうワックスで塗り、壁の白と対比させています。
とある盲学校(特別支援学校)の経験の詳しいことはこちらを読んでください。
生活そのものが、五感を使ったリハビリと位置づけたバリアな家となりましたが、安全には気を使っています。
細かく仕切られていた部屋は大きく開け広げ、壁に向かっていたキッチンを対面式のオープンキッチンにしました。それによりリビングから寝室までキッチンから見渡すことができ、ひとりで遊んでいても、家事をしながら視界に入るようになったのです。
また、ごろごろしている時間も多いので、(目が見えないのに立っているのは無理ですし、椅子よりも当時は床に転がっていました)
自然素材のいいところ。
床材は無垢の杉板にこだわりました。ワックスは天然蜜ろうワックス。なめても大丈夫です。
寝室や脱衣室の壁はにおいを吸収する珪藻土。脱衣の床はリノリュウムという天然素材を使いました。すべてわが子の健康のため。親ごころがにじみ出ています。
バリアフリーってなんだ?
バリアフリー住宅では介助が楽になるように、少しでも自分でできるように、などということにを考えますが、本人や介助者の住環境にも本来デザインを入れるべきと考えています。
機能を満たせばいいのか?一人でできることが増えればいいのか?もちろんそうです。でも住環境。数字に表せないことに大切なものもあるはずです。
友人を招待する為のキッチン
この家ではこだわりの制作キッチンを入れています。料理をして、友人を招く、そんな時間を過ごすにはかっこいいキッチンが必要でした。
自分が外にでて、自由になる時間がない。でも、ここには白いタイルのワークトップにホーローのシンク。ガスコンベックにコーラーの水栓。まさにカフェの様なキッチンがあるのです。
ここでも子供を目の前に座らせて料理ができるようにキッチンにくぼみを設けました。美しさと母の愛を感じるキッチンです。
バリアな家を作る建築家
今回バリアフリーに詳しい専門家として設計をしたのですが、私はバリアフリーの家にはしていません。むしろバリアな家にしたつもりです。
バリアフリーって本当に難しく、怖い言葉だと思います。
人を見て、その子を、その家族を見ずに設計が進んでしまうかも知れないからです。
また、
私達の仕事についてこちらをどうぞ。
お施主様のご厚意により、この仕事のことは、雑誌や講演会で、たびたび話をさせていただいています。視覚障害を持つ方が、講演にいらしていただき、「あなたの話を聞いて目から鱗が落ちましたよ」と言われたのが、非常にうれしかったことです。
また、仕事で、糖尿病で視覚障害になってしまった建築家と話をする機会がありました。
彼は、視覚障害になってしまい、建築家の職から退くことになったのですが、熱く建築の話をし、今感じる建築、空間の不満を伝えてくれました。
当初この様なHPでオープンに視覚障害や、盲学校での出来事を書く予定ではありませんでしたが、今年身内が障害を持つようになり、建築家として支援すべきことはこの分野ではないのかと思い、この文章を書いています。
視覚障害者の方に直接見ていただけませんが、ご家族でご自宅の空間を今よりも良くしたいと考える方がいて、そのお役に立てればと考えております。





